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コンセプトConcept

企画コンセプト、内容について

「接続性」と「孤立」から世界を考える

 世界は今、従来の枠組みを超えて様々なネットワークが拡大する一方で、紛争や難民・移民の問題、保護主義や排外主義、ポピュリズムの台頭といった課題に直面し、大きく揺れています。また人間の処理能力を大幅に超える量の情報が氾濫し、高度に複雑化する環境の中、SNSなどのコミュニケーションツールの急速な発達により、ネット上の小さなコミュニティやグループの中だけに身を置くような世界観の島宇宙化が進んでいるようにも見受けられます。さらには、これまでの大国や中央集権の論理に抗うかのような様々な小規模共同体の動きも活発化しています。

 このような従来の社会の枠組みや価値観が大きく揺らぎつつある今日、ヨコハマトリエンナーレ2017 は、「島と星座とガラパゴス」というタイトルのもと、世界の「接続性」と「孤立」の状況について、アートを通じて様々な角度から考察します。そして、相反する概念や現象が複雑かつ流動的に絡み合う世界や、独自性・多様性の在り様、さらには先行きの見えない時代に、人間の持つ想像力や創造力が、未来に向けた新たなヴィジョンやグランド・デザインをどのように導き出し得るのか、思索を巡らせます。

 展覧会場となる横浜美術館と横浜赤レンガ倉庫1号館、横浜市開港記念会館には、世界各地から約40組のアーティストたちの多種多様なメディアの作品が展示されます。作家数を絞り、多くの作家が複数の作品を展示することで、小さな個展の集合体のような構成となっています。

 これは、鑑賞者が個々の作家の創作世界に、より深く触れられるよう意図したものであり、同時に、異なる星や島が緩やかに繋がり星座や多島海を形成するように、作品世界が連なっていくイメージも反映しています。

参加作家には、現在のアートの主流とは一線を画し、独自の手法で課題に取り組み続けていたり、領域横断的に既存の枠組みや概念を超えた活動を推し進める作家が含まれるとともに、複数アーティストの協働プロジェクトや、直面する社会問題に芸術的観点からアプローチするプロジェクトもあります。また、各作品が扱うテーマは、個人と社会、私と他者の関係、国家や境界、ユートピアについて、あるいは異なる歴史観や人類の営み・文明への問いから、極めて日本的な孤立の問題まで多岐にわたります。


 本トリエンナーレでは、企画の構想にあたり、異なる分野の専門家を含む「構想会議」を通して、コンセプトをより多角的に掘下げました。また、展覧会に合わせて幅広い領域の専門家を迎えた公開対話シリーズ「ヨコハマラウンド」を実施し、視覚と対話の両面による「議論」「共有・共生」の機会となることを考えました。さらに、横浜国立大学大学院Y-GSAなど近隣の教育機関との連携や、横浜の歴史的施設にも注目し、開港、開国の歴史を背景に、複眼的かつ身近な観点からテーマに迫ることも試みます。こうし て、我々が生きる今・この世界の成り立ちや立ち位置を改めて確認するとともに、いかに未来に記憶を繋げるのか、またどのように共に生き得るのかなどについて考えるひとつの契機になることを目指します。

ヨコハマトリエンナーレ2017 コ・ディレクター
キュレーター、ベネッセアートサイト直島インターナショナルアーティスティックディレクター

三木あき子

©Aterui

ヨコハマトリエンナーレ2017について

作品を通して世界や人間についての思いを深め、
複雑な時代を生き抜く

 2001年に第1回を迎えた横浜トリエンナーレは、今年で6回目を迎えます。

初回には想像できなかったほど、この16年間でビエンナーレ、トリエンナーレと呼ばれる現代美術の国際展は、国内外の各地で頻繁に開催されるようになりました。今年はヴェネチア・ビエンナーレ、ドクメンタ、そして10年に一度のミュンスター彫刻プロジェクトが同時期に開催され、日本でも札幌、市原に加え、北アルプス、奥能登、種子島などでも新たに国際展が開かれます。


 国際展の成り立ちや規模はそれぞれに異なるとはいえ、国際展がブームとなる時代にあって、私たちは2011年の第4回横浜トリエンナーレ以降、美術館が会場であること、近代化とともに歩んできた歴史的背景を持つ横浜であることを考慮しつつ、独自性をいかに構築し、国内外に発信できるかについて、腐心してきました。

 そして私たちは、国際展を同時代のアーティストが作り出す新しい表現を身近に経験し、複眼的な視点を醸成し、作品を通して世界や人間についての思いを深める貴重な機会であるととらえています。 対立が頻発し、内向的な思想が広がりつつある先行きの見えない今日、現代美術に内包される創造性や想像力そして多様な視点がこの複雑な時代を生き抜く上で、夜空の星のごとく、その道筋を示すものとなることを願っています。


 本トリエンナーレは、美術だけでなく哲学、数学、解剖学、社会学など様々な分野の専門家の協力を得て、対話、協議を重視した今までとは異なる方法で準備を進めてきました。

 ヨコハマラウンド、ヨコハマサイト、ヨコハマプログラム、ヨコハマスクリーニングなど、展覧会に加え公開講座、街歩き、演劇、映像など多様なジャンルや人をつなげる試みを数多く組込んでいます。異なるものや、分断され孤立しているものを対話と思考と想像力とによってつなげ、新しい可能性を切り開く一助としたい。ヨコハマトリエンナーレ2017を通して、多くの方々が想像力の翼を広げ、多様な視点の豊かさを実感してくださることを期待します。

ヨコハマトリエンナーレ2017 コ・ディレクター
横浜美術館館長

逢坂恵理子

©Aterui

横浜とトリエンナーレ

「開港」の地・横浜から発信する

 1867年、幕末の日本は「大政奉還」によって近代化へと大きく舵を切りました。今年は、それから150年目にあたります。この大政奉還によってサムライによる政治が終わり、明治という新時代が拓かれました。この大変革の一因は、安政期の開国とその象徴ともいうべき「開港」にあったと言ってよいでしょう。江戸時代においては、一寒村に過ぎなかった横浜村は、1859年に開港場の一つとなり、急速にインフラが整備されました。そして、その必然として内外の文物や人々が新たに交錯する場所、すなわちガラパゴス的な「孤立」から「接続」する場へと劇的な変貌を遂げ、日本の近代化を牽引する街の一つとして発展しました。


 ヨコハマトリエンナーレ2017では、「接続性」や「孤立」など全体のテーマに関連する複数の視点を手がかりとしながら、今日的な諸問題について分野を横断して考えてみたいと思います。その一環として、一見、現代アートとは無関係と思える横浜の歴史的背景を意識的に視野に入れています。すなわち、横浜美術館の他にメイン会場として日本の近代化を象徴する市内の歴史的建造物、赤レンガ倉庫1号館と横浜市開港記念会館を選定していることも、そして横浜の史実や地誌などに言及する複数のアーティストを出品作家に含むことも、そうした視点に基づいています。また、本トリエンナーレのテーマに深く共鳴すると思われる会場近隣の歴史的な場所や施設などから複数を選定し紹介していることも、同じ視点に基づきます。

ヨコハマトリエンナーレ2017 コ・ディレクター
横浜美術館副館長 主席学芸員

柏木智雄

柏木智雄
©Aterui

構想会議Conception Meeting Members

ヨコハマトリエンナーレ2017では、世代や分野の異なる専門家で構成される構想会議を発足させ、ディレクターズとともに、既存の思想的な枠組みや専門領域の壁を越えた分野横断的な議論を行い、タイトルとコンセプトを決定しました。

スハーニャ・ラフェルSuhanya RAFFEL

M+美術館

エグゼクティブ・ディレクター

スプツニ子!Sputniko!

アーティスト、マサチューセッツ工科
大学
メディアラボ助教

高階 秀爾TAKASHINA Shuji

美術史家、大原美術館館長

東京大学名誉教授

リクリット・ティラヴァーニャRirkrit TIRAVANIJA

アーティスト、コロンビア大学芸術学部教授

鷲田 清一WASHIDA Kiyokazu

哲学者、京都市立芸術大学学長

せんだいメディアテーク館長

養老 孟司YORO Takeshi

解剖学者

東京大学名誉教授

「ヨコハマラウンジ」Yokohama Lounge

「ヨコハマラウンジ」は、作品鑑賞の合間にくつろいでいただくとともに、本トリエンナーレのテーマやコンセプトを深めるにあたってインスピレーションの源となった情報や思想の断片、さらには構想会議メンバーの発言・提案などに触れる場所でもあります。これらの多様な〈素材〉は、一見、テーマと結びつかないかもしれないですが、個々の鑑賞者の自由な視点と発想でそれらを繋げ、展示作品との関係性を探ることで、思考の旅の無限の可能性が拓かれることを期待します。

「ヨコハマサイト」Yokohama Site

ヨコハマトリエンナーレ2017のテーマや主要なキーワードである「接続性」や「孤立」、「共生」、「多様性」。これらと結びつくような事業や展示を実施してきた施設や歴史的背景をもつ場所や建造物を「ヨコハマサイト」と呼び紹介します。
また、アーティストの田村友一郎はいくつかの場所(サイト)を星座のように結びつけ、独自の視点で創りあげた物語「γ(ガンマ)座」を構成。田村が紡ぎ出した物語は、山下公園に係留する氷川丸の「旧三等食堂」で鑑賞できます。詳細はこちら

公開対話シリーズ「ヨコハマラウンド」 Dialogue Series “Yokohama Round”

ヨコハマラウンドは、様々な分野の専門家を招き、円卓(roundtable)を囲むように何回かにわたって(rounds)対話・議論を重ねます。開幕に先立ち2017年1月より開始し、閉幕に合わせて「ヨコハマトリエンナーレ2017宣言」で締めくくります。







日程 テーマ 登壇者 
[総合進行:三木あき子]
ラウンド1
1月15日(日)
0と1の間にあるアート
0と1のデジタルの世界が進む現代社会におけるアートの意味とは?
養老孟司
(解剖学者、東京大学名誉教授)
布施英利
(美術批評家・解剖学者)
ラウンド2
3月25日(土)
創造と汚染
異なる文化や言語、価値の交差、混淆と混濁。そこに生じる問題と新たな創造の豊かさについて、世界が保守化する今、改めて考える。
リクリット・ティラヴァーニャ
(アーティスト、コロンビア大学芸術学部教授)
今福龍太
(文化人類学者・批評家、東京外国語大学大学院教授)
スプツニ子!
(アーティスト、マサチューセッツ工科大学メディアラボ助教)
ラウンド3
5月28日(日)
島とオルタナティブ: 歴史・社会、医療、アート
島をキーワードに、幅広い視点から従来の価値や世界観とは異なるオルタナティブな方向性、可能性を探る。
マップオフィス
(アーティスト)
稲葉俊郎
(医師、東京大学医学部附属病院循環器内科助教)
吉見俊哉
(社会学・カルチュラルスタディーズ研究者、東京大学大学院教授)
ラウンド4
8月4日(金)
 ー5日(土)
繋がる世界と孤立する世界
現代の世界の接続性と孤立性を、詩的かつ批評的に読み取るアーティストたちの視線と活動とは?
参加アーティストから20名程度を予定
ラウンド5
8月26日(土)
ガラパゴス考察
環境の中で変化しつつ持続する自律的な生命の観点から、自然、社会、インターネットなどを考える時に見えてくる新たな可能性とは?
ドミニク・チェン
(情報学研究者、早稲田大学文学学術院准教授)
長谷川眞理子
(行動生態学・自然人類学者、総合研究大学院大学学長)
川久保ジョイ
(アーティスト)
ラウンド6
9月18日(月)
新しい公共とアート
孤立と接続というテーマを踏まえて、公共空間はどのように変わっていくのか、また都市、建築、アートの関係とは?
〈横浜国立大学大学院Y-GSAとの共催〉
北山恒
(建築家、横浜国立大学名誉教授)
内藤廣
(建築家、東京大学名誉教授)
西沢立衛
(建築家、横浜国立大学大学院教授)
小林重敬
(都市計画学者、横浜国立大学名誉教授)
ラウンド7
10月21日(土)
我々はどこから来てどこへ行くのか?
壮大な時間・空間の繋がりの中で、我々の今・ここにある生をどのように捉えるか、これからの生き方、未来の模索における創造・表現の意味とは?
畠山直哉
(写真家)
平野啓一郎
(小説家)
小林憲正
(宇宙生物学者、横浜国立大学大学院教授)
ラウンド8
11月3日(金)
より美しい星座を描くために: アートの可能性とは?
先行きの不透明な今、アートは見えないものの間を繋げ、未来のヴィジョンやデザインへの発想の転換や思考の飛躍を可能にするのか?
構想会議メンバー+ディレクターズ

「ヨコハマスクリーニング」Yokohama Screening

本展のテーマに即した映像作品、本展出品作家に関連するドキュメンタリーなどを上映します。詳細はこちら

「ヨコハマプログラム」Yokohama Program

ヨコハマトリエンナーレ2017のテーマや主要なキーワードである「孤立」と「接続性」を鶴見大学図書館の貴重な書籍から読み取る鶴見大学と横浜美術館美術情報センターの共同企画や、高齢化が進み、孤立する人々が暮らす日本有数の寄せ場・寿町に立ち上げる巨大テント劇場では、横浜を舞台とした作品を上演します。詳細はこちら

イメージビジュアルImage Visual

ポスター、チラシ展開などのためのイメージビジュアル

展覧会タイトルの「ガラパゴス」を象徴する存在としてガラパゴスゾウガメをイメージとして取り込み、日本の伝統文様である「亀甲紋」を組み合わせました。また、古代インドの宇宙観を表す「世界亀」から構想を得て、亀の上に横浜の街並みを描きました。

クリエイティブ・ラボ PARTY

本イメージビジュアルはPARTYによるものです。PARTYは、インターネットの進化による社会の「ネットワーク化」と「グローバル化」に対応した、 ビジュアル、コミュニケーション、プロダクト、サービス、イベント、コンテンツ、空間など、 デジタルの技術を活用したデザインのほか、プロトタイプの研究開発も手掛けるクリエイティブ・ラボです。東京とニューヨークに拠点を構えています。

川村真司| クリエイティブ・ラボPARTYクリエイティブディレクター/共同創設者。数々のブランドのグローバルキャンペーンを始め、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など活動は多岐に渡る。アメリカの雑誌Creativityの「世界のクリエイター50人」やFast Company「ビジネス界で最もクリエイティブな100人」、AERA「日本を突破する100人」に選出。

室市栄二| ビジュアルデザイナー/デザインテクノロジスト。3DCG、モーショングラフィックスそしてクリエィティブコーディングのスキルを駆使したハイブリッドなビジュアル表現を追求している。様々なグローバルブランドのプロジェクトに参加し数多くの国際的なアワードを受賞。日本、サンフランシスコ(AKQAアートディレクター)を経て、2014年にクリエィティブ・ラボPARTY New Yorkにデザイン・ディレクターとして参加。