高松次郎(日本) / Jiro
Takamatsu
1936年東京都生まれ。1998年東京都で没。
東京芸術大学美術学部卒業。在学中の1957年より発表活動を始める。
その作品は形式、素材とも多岐にわたったが、発想のユニークさによってつねに話題を呼び、60年代以降、日本の現代美術界で最も影響力の大きい美術家の一人と目された。その高松次郎が初めて注目されるきっかけとなったのが、「影」をテーマとした絵画である。1964年に始まる影の連作はこの美術家の代表作品の一つとなった。
影の連作は白く塗られた板、あるいはキャンバスに、油絵の具またはアクリルによって、あたかも人物や物体の実際の影がそこに映っているかのようにリアルに描くのを特徴としている。しかし、影の連作は壁にかけられるそれにとどまらず、画廊や現実の空間の壁そのものに影をリアルに描くという形式にまで拡張された。
この現実の空間での作品の一つが、1971年の1月7日に設置された《工事現場の影》である。これは東京銀座で新築中のビルの工事現場の外壁としてつくられたもので、高さ240cm、幅140cmの板を6枚つなぎあわせ、ビニール塗料で全面を白く塗り、そこへ通行人の影が映っているかのように描いたものだった。これは一日で撤去されたが、作品といえば一日だけの一過性の作品にほかならない。高松次郎の影の作品のうち、最も寿命の短い作品だったことになる。しかし、それは影というテーマにいかにもふさわしい一過性の作品だった。
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