Q:横浜トリエンナーレをどんな展覧会にしたいのですか。
A:まず、会場を訪れる人たちが楽しめる展覧会にしたいですね。思わず引き込まれてしまうような新鮮な驚きと楽しさに満ちた展覧会にすることが大切だと思います。驚きや楽しさといっても、アミューズメント・センターのような、あらかじめプログラムされた、予定調和的な刺激のことではありません。見取り図のない迷宮や地図を持たずに見知らぬ街をさまよう時のような期待と緊張、訪れた人が未知のものに出会い自分自身でその面白さを発見していくワクワクするようなプロセス、こうしたものを会場に創り出せたら最高だと思います。そしてこうした楽しさの奥に、私たちの日常をいままでとは全く違った角度から考え直す方向性の示唆が込められればと願っています。
Q:世界中で国際展が開かれている状況で、いま横浜トリエンナーレを新たに立ち上げるポイントとなる点は何だと思いますか
A:やはり「横浜トリエンナーレ」の独自性を、内外の人々が納得できる形で示す事でしょう。でもそれは、グローバリゼーションの論議に脳天気に参加したり、ニューメディアやITを称揚したり、あるいはステレオタイプの日本やアジアを重視するというような、単純で形式的な手法では達成できないと思います。こうした表面的な流行や差異を追求しても、しょせん既存の国際展のバリエーションにしかなり得ないし、私たちが既に知っている事柄を再確認するだけのお祭りにしかならないでしょう。横浜トリエンナーレで私たちは、既存の国際展とは異なる「横浜トリエンナーレ」独自のものの見方、世界や社会に対する独自の解釈軸、その可能性のようなものを提示することが必要ではないかと思っています。それはコンピュータに例えるなら、既存の主流OSとは全く異なる別種のOS、アルゴリズムでは解析不能な設問があることを前提としたOSの構築を夢見るような、途方もなく大それた事かもしれません。でも、こうした挑戦の意志を持って横浜トリエンナーレに臨むことはとても大切な気がします。
Q:このトリエンナーレのみどころは?一番見せたい部分はどこですか?
A:3年に一度、世界中の現代美術の最新動向を紹介することが横浜トリエンナーレの主要な目的です。ですから今、世界各地の美術家たちが何を考え、どのよう な表現に到っているかが見られること、これが最大の見所であることは言うまでもありません。さらに私は、世界中の美術家たちが取り組んでいる様々なアプローチ、多様な視点や考え方を、作品を体験し美術家たちと交流することで、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと思っています。時として美術家たちは、私たちが当たり前だと信じている日常を、思いも寄らぬ角度から解釈しその新たな側面を示してくれることがあります。美術や文化だけでなく、政治や科学や技術の問題も、しかも平易な視覚表現によって示してくれます。横浜トリエンナーレでこうした作品に出会うこと、そしてその視覚的で知的な感動をできるだけ多くの人に素直に体験してもらいたいと思います。
Q:このトリエンナーレにどんなメッセージを込めていますか?
A:私は、美術を通じて私たちの社会や文化について、様々なことが語れ考えることができることを知ってほしいと思います。美術は決して日常から遊離した営みではなく、私たちの生活感覚の隣にいつもあるのです。そして私たち自身が、各の日常についてあらためて考えてみること、このささやかな踏み込みが同時代の美術活動を理解するための入り口になるでしょう。自分の理解を超えたものに出会いそれについて考えることは、自分自身と他者について考え直す契機になると思うのです。
Q:このような大型プロジェクトで一番重要なことはなんでしょうか?
A:言うまでもなく開催地横浜の広範な人々の理解と支援です。公共工事のような即効性を持たない「横浜トリエンナーレ」を受け入れ育てていくこと、経済原則からは無用とも思える美術家の活動を支援していくこと、この蓄積が地域の未来にとっていかに大きな可能性を生み出すかを理解してもらうことが重要だと思います。この点について横浜の先見性と可能性については疑問を持っていません。もう一つ重要なことは、主催者側の組織としてのチームワークと、様々な局面における各スタッフの責任ある決断の積み重ねだと思います。一人一人が自分の直面する問題に責任ある決断を下す意志を持つこと、そしてそれを許容する柔軟な組織とチームワークが重要です。横浜トリエンナーレへの挑戦は、私たち自身の日常を少しづつ変えていくプロセスのようでもあり、とても美術的な実践だと思うのです。 |