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「ヨコトリーツ!THE SECOND SEASON」の第2号(通巻14号)が発行されました!
今回はヨコハマトリエンナーレ2017ディレクターズの一人、逢坂恵理子氏へのインタビューも掲載!昨年秋に発表されたタイトル「島と星座とガラパゴス」について、気になるポイントを訊いてみました。
また、自主活動6グループからの活動紹介コメントも掲載!気になった活動にぜひ参加してみましょう!
*「ヨコトリーツ![Yoko-Treats!]」は、ハマトリーツ!(横浜トリエンナーレサポーター)の情報発信メディアとして、「情報発信」グループによって制作されています。毎号、サポーター活動の様子やアートに関する情報をお届けします。「情報発信」グループでは、取材、撮影、編集など、フリーペーパー「ヨコトリーツ!」を一緒に作り上げていくメンバーを随時募集中です!興味のある方は、月に一度の自主活動に見学にお越しいただくか、横浜トリエンナーレサポーター事務局までお問い合わせください。
逢坂恵理子氏へのインタビュー全文掲載!2016年10月11日、ヨコハマトリエンナーレのタイトルとコンセプトが発表になりました。タイトルは「島と星座とガラパゴス」。今号では、ヨコハマトリエンナーレ2017ディレクターズの一人である逢坂恵理子氏(横浜美術館館長)が登壇した昨年10月の「トリエンナーレ学校」のレポートと、編集部が同氏に直接投げかけた質問への回答を通して、その謎に迫ります。
−タイトルとコンセプト決定に至った背景についてお聞かせください- 私たちの予想をはるかに超えて、21世紀の世界の政治、経済、文化、自然の状況はめまぐるしく変化し、さまざまな対立や混迷化を深めています。そして、世界の様々な事象・課題は対岸のできごとではなく、私たち個人の生活にも深く影響を及ぼしつつあります。一方、アートの分野では、世界各地でビエンナーレ、トリエンナーレといわれる現代美術の国際展が急増し、日本でも特に2010年以降、大小含めて数多く開催されるようになりました。いわば食傷気味の中で私たちは、横浜トリエンナーレの在り方や独自性=「ヨコトリらしさ」をどのように打ち出すかを検討してきました。
- そして今回は、準備のプロセスからこれまでとは異なる方法を採用することにしたのです。ひとりのアーティスティックディレクターに依頼するのではなく、対話を重視し、美術のジャンルを超えた多様な方々とともにチームワーク方式で進めることにしました。手間はかかっても異なる分野の方々と連携し違いを認識しながら、アートが内包する柔軟性によって、課題を乗り越え、閉塞した状況を突破する道標や可能性を示唆することができればと思っています。さらに2017年は、大政奉還から150年でもあるので、横浜の歴史を振り返りながら、地域の特徴をふまえ、世界へ発信することも大切と考えています。
−具体的な言葉で構成されたタイトルは他の芸術祭にあまり見られない特徴です。反響はいかがですか。
- 一見、夏休みにぴったりに思えるかもしれませんが(笑い)、このタイトルは意味深長です。アーティストや海外の美術関係者、プレスからの反応は概ね良いですね。 「島と星座とガラパゴス」は、具体的な言葉を敢えて並べたことで、単語が示す直接の意味だけでなく、そこからイメージが広がり、いろいろな事柄について思い巡らせる効果が生まれます。構想会議でも、各メンバーがご自身の専門領域、関心対象ごとに異なる多様なイメージを語り、議論を深めることができました。例えば、「ガラパゴス」は日本では『ガラケー』に代表されるように、閉じた世界での需要を意味し、どちらかといえばネガティブですが、生物学的な視点ではポジティブな意味合いが強く『独自の進化』『オリジナリティ』『多様性』が挙げられました。「島」という単語からは『島国根性』『島国』『諸島』『地方(「ちほう」ではなく「じかた」と読みます)』『小さな組織』『連続』といったイメージを、「星座」からは『想像力』『水先案内』『道しるべ』が挙げられました。今回のタイトルには、島のような孤立したバラバラな状況を、星座のごとく想像力によってつなぎ、ガラパゴスに象徴されるような多様性へと導くという意味合いが含まれています。
−構想会議の皆さんが一堂に集まることができない中で、タイトルとコンセプトを決めるのは苦労されたのではないかと思います。
- 現在も国内外で活躍中の個性的なメンバー全員のスケジュールを同じ日に調整することは不可能でした。ただ、どなたもご自身の専門領域をきわめ、その垣根を超えて活動している方々ですので、議論に参加する中で、綺羅星のような様々な提案、示唆に富む発言をしてくださいました。最終的なタイトル・コンセプトの決定はディレクターズで行いましたが、この中には構想会議メンバーの議論の成果がしっかりと反映されています。
−タイトルをアーティスト/作品選定にどう具現化していくのか、そのプロセスをお聞かせください。
- 今回の大きなテーマは「孤立」と「接続性」です。英国のEU離脱や米国の大統領選挙に象徴されるように、世界は他者や多様性を受け入れるよりも、限定された価値観を共有する範囲に留まろうとする孤立の方向に傾きつつあります。日本では老人の孤独死やいじめも大きな課題です。
- 今回は、人々をつなぐチームワーク的な作品、異文化を受け入れた開港後の横浜の歴史を意識した作品など、キュレトリアル・チームでテーマにそって多くの候補を出し、現在、絞る段階にきています。今回はどちらかといえば参加アーティスト数を増やすよりも、一人一人のアーティストの展示を丁寧に作り上げる予定です。ひとつひとつが小さな個展=島ですが、それをつなぐと群島のようになるイメージですね。
−特に「島と島を繋ぐ」というところに共感しました。
- 優れた感性と才能を持つアーティストによる同時代を切り取った作品の鑑賞を通して、彼/彼女の先見性や柔軟性を感じ、自分とは異なる視点と、多様な他者の存在に気づかせること、それは現代アートの力のひとつです。気づきや他者との関わり・繋がりは自分自身の変化を生みます。同時に繋がることによる変化を恐れる気持ちも生まれますが、海で隔てられた「島国」日本社会が江戸時代に独自の進化を遂げたこと、「開国/開港」により海を媒介に世界と繋がり大きく発展したことなど、いろいろなレベルで、今回の横トリが「自分たちはどうあるべきか?」という問いにつながるよう、そして「孤立」「接続性」について考える機会となるよう、願っています。
−ヨコハマラウンドは他の芸術祭にない新機軸ですね。
- 実は、国際的には全体としてこの傾向にあります。デジタル時代だからこそアナログ的対話が求められるともいえるでしょう。専門化が益々極小化していくなかで、建築、演劇、科学など様々な分野の人との対話はより必然性を増しています。一堂に会して多様な課題や可能性をともに協議するプラットフォームとしてのビエンナーレ、トリエンナーレの役割は、さらに期待されるところではないかと思います。
- 「ヨコハマラウンド」は、展覧会の付属ではなく、今回のヨコハマトリエンナーレの大きな二つの柱の一つです。タイトルやコンセプトから想起される様々なテーマについて、構想会議メンバーや魅力的なゲストを国内外から招いて講演や対談を深めていくように考えています。
−逢坂館長はヨコトリ2011でもディレクターを務められていますが、ディレクターとして臨む上で当時と異なる点があればお聞かせください。
- 2011年は3月に東日本大震災があり、開催も危ぶまれ、作業を進めることができない時期もありました。開催のgoサインがでたのが4月半ばで、節電など臨機応変な対応が常に求められるタフさが相当必要でした。皆一丸となって開幕まで走りぬいた、いわば非常事態の中での初めて尽くしだったので、比較は難しいです。その2011年の第4回から横浜美術館が主会場の一つに位置付けられ、今回で3回目。この約10年間で、横トリをめぐる環境は不安定な国際状況や国際展の増加で様変わりしました。そして第7回は東京オリンピックの2020年です。今回は、2017年を改めて読み解くことから始め、横浜トリエンナーレの特徴を出すことをより意識しています。そして開催地である「横浜」という場所・歴史に着目しつつ、顔の見える国際交流を進めたいと考えています。
- 2017年が大政奉還から150年ということもあり、この時代の大きな転換期に、もう一度、私たちが異なるものに対して、また多様な価値観、複雑性に対して、どのように向き合うべきか、横トリをとおして考える年としては、非常に意味があると考えています。
−最後に、サポーターへの期待、メッセージをお願いします。
- 先ほど横浜というまちに着目したい、とお話ししましたが、サテライト会場の一つとして活用を検討している開港記念会館のような歴史的建築物だけではなく、地域の住民や団体、事業者の方々なども横浜というまちの大切な財産です。 特にハマトリーツ!の皆さんは会期中のみならず、中間年にも積極的な活動でこの事業を支えてくださっていることに感謝しています。開幕に向け、アーティストや作品が具体化する過程で、実際の作品制作の支援もお願いすることになるでしょうし、会期中の来館者の皆さんへのおもてなしや様々なイベントの実施、そして作品鑑賞のガイダンスなど、ハマトリーツ!の皆さんに活躍していただける機会をたくさん提供できればと考えています。どうぞ引き続き、個々のものをつなぐために、ご支援、ご協力いただければ幸いです。今年はなんと横トリならぬ酉年。今年の横トリは語呂合わせのよい年なので、空に鳥が羽ばたくように、皆さんとご一緒に横トリが更に飛躍できるよう願っています。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
−ありがとうございました。