リウ・ディン(劉鼎)
アーティスト、キュレーター。
1976年、江蘇省常州市生まれ、北京を拠点に活動。
中国の近現代史における文化、芸術、政治の影響関係に関するリサーチをもとに、テキストや写真、インスタレーション、絵画、パフォーマンスなど様々なメディアによる作品制作のほか、執筆活動や、展覧会企画を行う。
主な個展に「Reef: A prequel」(ボンネファンテン、マーストリヒト、2015年)。
主な国際展出品に、釜山ビエンナーレ(2018年)、イスタンブール・ビエンナーレ(2015年)、ヴェネチア・ビエンナーレ中国館(2009年)。
主なグループ展に「Discordant Harmony」(アート・ソンジェ・センター、ソウル、他巡回、2015-16年)。またテート(ロンドン)のオンライン・フェスティヴァル「BMW Performance Room 2015」などに参加。
キャロル・インホワ・ルー (盧迎華)
美術史家、キュレーター。北京インサイドアウト美術館ディレクター。
1977年、広東省潮州市生まれ、北京を拠点に活動。
北京インサイドアウト美術館での主な展覧会企画に「Wang Youshen: Codes of Culture」(2022年)。
2012-15年、OCAT(深圳)アーティスティック・ディレクター兼チーフ・キュレーター。
光州ビエンナーレ(2012年)コ・アーティスティック・ディレクター。
『Frieze』への寄稿のほか、審査員として「Tokyo Contemporary Art Award」(2019-22年)、「Hugo Boss Asia」(2019年)、「ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞」(2011年)などを歴任。
2013年、テート・リサーチ・センターのアジア太平洋フェローシップ・プログラム客員研究員。
共同キュレーションの実績
2007年より北京を拠点に共同でキュレーションを開始。
近年の主な展覧会企画に「Notes: Chinese Artistic and Intellectual Voices from the End of the Twentieth Century」北京、2022年、トランス東南アジア・トリエンナーレ「Sounds as Silence: The Academic Value of Life」広州、2021年、安仁ビエンナーレ「Crossroads」安仁、2017年、深圳彫刻ビエンナーレ「Accidental Message: Art Is Not A System, Not A World」 OCAT、深圳、2015年、「Little Movements: Self-practice in Contemporary Art」第1回:OCAT、深圳、2011年/第2回:ムセイオン、ボルツァーノ、2013年/第3回:国立アジア文化殿堂、光州、2015年。
アーティスティック・ディレクターの選考にあたって
浅田 彰
第8回横浜トリエンナーレ アーティスティック・ディレクター選考委員会 委員長
京都芸術大学 教授、ICA京都 所長
第8回横浜トリエンナーレのアーティスティック・ディレクター選考にあたっては、書類選考を踏まえて3組の候補者のリモート面接が行なわれ、リウ・ディン(劉鼎)とキャロル・インホワ・ルー(盧迎華)のチームが選ばれました。第7回横浜トリエンナーレのラクス・メディア・コレクティヴに続き、外国人の男女混成チームがアーティスティック・ディレクターを務めることになります。ちなみに、選考委員会も女性3名と男性2名、しかも今回初めて外国人2名(横浜と同じ港町のリヨンとイスタンブールから一人ずつ)を迎えた構成で、パンデミックの影響もあってリモート形式だったため世界各地をつないで二度にわたる充実した審議ができました。とはいえ、私たちはポリティカル・コレクトネスだけで日本以外のアジア地域の人なり女性なりを優先しようと考えたわけではなく、あくまでも芸術的かつ社会的に意義深いトリエンナーレを実現するヴィジョンと実行力があるかという点を最も重視して選考にあたったことを強調しておきます。
世界のアート・シーンの第一線で活躍する候補が揃っただけに、最終選考はたいへん水準の高いものでした。とくに、リウ・ディンとキャロル・インホワ・ルーの提案は、世界各地のアート・フェスティヴァルでよく見る流行のテーマを並べるのではなく、日本でも馴染み深い魯迅の『野草』という散文詩集から出発して深く広く想像力を巡らそうとするもので、アジアに開かれた都市・横浜でのアート・フェスティヴァルにふさわしいものと思われました。このアーティスト/キュレーター・チームは、すでに日本を含む世界各地での制作・展示やアート・フェスティヴァルの組織などの経験を重ねて、状況に柔軟に対応しながら企画を実現していく能力を備えており、ポストコロナ時代に入って対面形式を含むコミュニケーションの可能性が広がっていけば、詩的なテーマを具体化して興味深いトリエンナーレを実現することができるでしょう。選考委員会が最終的にリウ・ディンとキャロル・インホワ・ルーを選んだのは、このような理由によるものです。
ニコラ・ブリオーは「ラディカント」(蔦のように茎や葉から不定根を出して広がっていく植物)をグローバル化したアート・ワールドのパラダイムとして提案しました。前回の第7回横浜トリエンナーレ アーティスティック・ディレクター選考結果報告でも述べたことをそれに添って新たに言い換えるなら、『野草』を出発点とする想像力の冒険があちこちの隙間に根を下ろしながら赤レンガを覆う蔦のように広がってゆき、表面的なグローバリズムを超えた真に国際的なアート・フェスティヴァルに結実することを期待してやみません。
第8回横浜トリエンナーレ アーティスティック・ディレクター選考委員会 委員 ※敬称略
浅田 彰(委員長)京都芸術大学 教授、ICA京都 所長
蔵屋美香 横浜トリエンナーレ組織委員会 総合ディレクター、横浜美術館 館長
鷲田めるろ 十和田市現代美術館 館長
ビゲ・オール イスタンブール・ビエンナーレ ディレクター
イザベル・ベルトロッティ リヨン現代美術館 館長、リヨン・ビエンナーレ ディレクター