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エピソードから始まるヨコハマトリエンナーレ2020

ラクス・メディア・コレクティヴ

私たちはときどき、トリエンナーレと次のトリエンナーレの間には1000日ほどあるという単純な事実を忘れてしまう。私たちはその時間のある部分を通路だと考えたい。そこで(世界じゅうの)たくさんの人々に、今回のトリエンナーレを作りあげるさまざまなインパルスを、見つめ、精査し、興味をもってもらえるようにしたいのだ。対話を広げていければ、私たちは、言説と実践、調査と制作、少数派と多数派、隠蔽と公開の間にある強固な区分をほぐしていけるだろう。この対話は、美術作品とそれをめぐることばが、期待され、受け止められ、伝わっていく過程にしたがって進めていかなければならない。
 
私たちは、「エピソード(Episōdo)」(日本語を英語表記にしたもの)という短期間のイベントを断続的に行い、こうした対話のきっかけを作りたいと考えている。「エピソード」ということばは、ある時点の出来事に注目したとき何が起きるかを考えるために選ばれている。たとえば、気温が突然変化するのに立ち会ったらどうなるのか? 明るすぎる空を見上げて日食を観察しようとするとどうなるのか? あるいは、本来関係のない器械の間に予期せぬ同期が起こるとどうなるのか?
 
「エピソード」は、以下のようなものの間に網を張っていく。次々に行われる集団での作品制作、素材をめぐる静かな内省と思索、遠くない未来に向けての組織づくり、音の世界の探究、インフラと廃棄物を隠す硬いうわべについての研究、スポーツにおける息をのむ美技をめぐる好奇心……。そうして「間の時間」、次の1000日への時間を刻んでいくのだ。
 
「エピソード」に招かれるのは、アーティストやキュレーター、映像制作者、ダンサー、ミュージシャン、パフォーマー、わけても未来学者だ。彼らは打ち解けた集まりの中で実験を行う。そこでは自然発生的に歴史的証言が行われ、はっきりしない話があえて語られ、思想の旅程アイティネラリーが推敲され、異なる時代のエコロジー的・歴史的調査に誰もが耳を傾けるだろう。
 
ヨコハマトリエンナーレ2020の展示はサイトスペシフィックであり、タイムスペシフィックだが、その一方で、「エピソード」は「エピソード」ならではのやり方で、横浜をばらばらで一時的なサイトからなる別々のコミュニティ群との対話に巻き込んでいく。
 
「エピソード」は、2019年11月に横浜で行われる「エピソード00 ソースの共有」から開始される。イベントは、香港、ニューデリー、ヨハネスブルグに移動し、「ディスカーシヴ・ジャスティス」(とりとめのない正義)に関する対話を始め、2020年7月に開幕するトリエンナーレの期間中、横浜で本格的に展開される予定である。
 

 

[須川善行訳]