フードディレクター、フードクリエイティブチーム「eatrip」主宰。
長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。1998年渡英。いくつかのレストランを経験し、2010年にはアメリカ・バークレーのオーガニックレストラン「シェ・パニース」のキッチンで経験を積む。主な活動として、ケータリングフードの演出や、料理教室、雑誌の連載、ラジオ番組等。食の可能性を多岐に渡って表現し、その愉しさを伝える。2011年には、食とアートのイベント“OPEN harvest”を開催。その後、土地の風土や文化を、食を通じて身体に取り込んでいくことをコンセプトに“nomadic kitchen”プロジェクトを開始。2012年、東京原宿に「restaurant eatrip」オープン。料理を通じて食のもつ力、豊かさ、美味しさを伝える活動を展開している。2009年、初の監督作品となる食のドキュメンタリー映画「eatrip」公開。著書に『eatrip gift』(マガジンハウス)がある。
よく行くわけではないですが、まったく行かないわけでもないです。
本当は時間さえあったら一人でも行きたいのですが、なかなか時間がとれないので、海外に旅行をするときにはふらっと立ち寄ったりします。
一般的に名画と言われるものには、そう言われるだけの理由があるのだろうと思って観ることが多いです。現代美術は、まず自分が受け入れられるかどうか考えます。同じような世代の人たちでも、これだけものの見方が違うということを知るきっかけになる気がします。
作品ではないのですが、大きな窓の外に摩天楼の景色が広がるニューヨークの美術館で、そこに流れる時間や空気感、様々な作品から発せられるものに身を委ねるような感覚を覚えたことがあります。そういうのはとても好きです。
今、ふと思い出したのですが、イギリスに1年間住んでいたときに、ダミアン・ハーストの、半分に切られた牛をホルマリン漬けにした作品を観て、「ひどい!」と思ったことがありました。普段は目を伏せてしまいがちなことや、あえて見たくないものに目を向けさせるアーティストもいますよね。ダミアンもそのひとり。どちらかと言うと、みんな明るくてきれいなものが好きだけど、その裏には悲しみや怒りもある。そういうものを題材にしている作品は、イヤだと思っても心に強く残りますね。
ヴィヤ・セルミンスの≪銃を持つ手≫(1964)はとても印象深かったです。このアーティストは実際に人を殺したことがあるのか?本当にそういうことを知っている人なのか?と想像をしたり、たとえ技術があったとしても私にはこういう絵は描けないなと考えたりしました。瞬間をそのまま切り取る写真と違って、絵は自分の心に最も残った一点だけを抽出して表現するものだと思うので、より感情が伝わる気がします。
釜ヶ崎芸術大学の展示です。不思議な引力があって、もう少しあの場にいたかったです。アーティストとして生きているわけではない人たちの作品ですが、何がアーティストで、何がそうではないかという線引きに意味はないと思えば、これはこれで感情をもった塊のような気がしてきます。異質だと感じながらも、強く惹きつけられました。
とにかく心で感じることが大切だと思います。好き嫌いにかかわらず、向き合ってみなければわからない感情はたくさんあります。そのときは何とも思わなくても、突然思い出すことがあるはずです。人が一生懸命つくった作品には、必ず何かしらのメッセージがあり、思わぬ副産物を与えてくれることもあります。誰にとっても1回きりの人生ですが、そこには様々な生き方があると、今回ヨコトリを巡ってみて感じました。
仕事柄、私の周囲には農産物をつくっている人が多く、お米やワインをつくる人たちは、常に年1回の収穫を考え、それを逆算しながら残りの人生を考えています。
例えば70歳まで現役だとすると、あと何回の収穫に挑戦できるかを考えて生きる。もちろん売ることも大事ですが、農産物を自分の作品だと考えている人は、そのチャレンジを命の限り続けたいと思うわけです。そういう人に触れることで私は自分が豊かになっていく気がします。それに似た感覚で、今回多くのアーティストのチャレンジに触れたのはとても刺激的なことでした。
すごくグチャグチャな料理。または、姿カタチはそのままに、きれいで潔いよい料理。両極端などちらかのものをつくる気がします。(笑)
2014年9月2日
ヨコハマトリエンナーレ2014
新港ピア会場 カフェ・オブリビオンにて
聞き手/文責:横浜美術館広報渉外チーム 工藤千愛子
アーティスティック・ディレクター 森村泰昌よりお返事
野村友里 様
「食」って、ホントに大事な文化だなって思います。その国の食べ物が好きになったら、もうその国のこと、嫌ったりできませんから。私の友人で、タイ料理にはまってしまった人がいたんですね。そしてタイ料理店でバイトしていて、そしてそのタイ料理店の人と結婚して、今は自分の店をもっています。もちろん結婚相手はタイの人。
今回のヨコハマトリエンナーレ2014、私は美術展という名の「ディナーのフルコース」だと思っています。ディナーですから本格的。私自身はどちらかというと、バールとかで軽く食事をしたいタイプなんですけれど、ヨコトリなんていう老舗の大きなレストランのシェフを任せられたようなものですから、やっぱりお客さんにはディナーを提供する必要があるんですね。そしてフルコース。美術館全館と新港ピアも使って、食べきれないほどの量の満願会席。ちょっと辟易なさったかもしれませんが、これが本格的な美術の味わいだというものをお見せしたかった。どうかご賞味ください。
「もし私がお邪魔したら、どんなお料理を?」という質問に、ぐちゃぐちゃか、潔い料理か、その両極端のどちらかとお答えになっていますが、いえいえ普通のお料理がいいです。楽しくておいしい、そしてごくフツウのお料理。いつかお会いして、美術の話ではなく、料理の話オンリーで、やらせていただきたいです。