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鈴木芳雄

鈴木芳雄 すずき・よしお

編集者、愛知県立芸術大学客員教授。
2010年までの10年間雑誌『ブルータス』の副編集長を務め、美術の特集などを担当する。現在はフリーランスの美術ジャーナリストとしても活動、国内外のアートシーンを取材し、雑誌やウェブに寄稿している。主な仕事に「奈良美智、村上隆は世界言語だ!」、「杉本博司を知っていますか?」、「緊急特集 井上雄彦」など。共編著に『チームラボって、何者?』。

エッセイ

 

「撮影した映像は世界についての言説というよりも世界の断片であり、だれにでも作れるし、手にも入る現実の小型模型といったものである。」(スーザン・ソンタグ 近藤耕人訳『写真論』晶文社)

 数年前、雑誌『ブルータス』本特集の取材のため、森村泰昌さんのご自宅にうかがった。書棚はきちんと整理されていて、美術関連書はもとより、小説や哲学書などが並んでいた。それほど大きな引越をしてない人の本棚はその人を作ってきた本の蓄積が見渡せ、貴重であり、興味深い。ずっと関西を生活や活動の中心にしてきた森村さんもそんな恵まれたライフスタイルを持っている人だ。

 彼の本棚を取材したいと思った理由の一つ目はそれだが、さらに、自身の作品集的な書籍のほか、美術の手引書などの良著作も多く、文章も達者なのできっといい棚を持っているに違いないと考えられた。
 予想は的中し(それは職業的な勘でもあろうが、「本棚を見てみたい」と思わせる人の本棚を見せてもらって、はずれたことはない)、たとえば、森村さんが高校時代に見た展覧会の資料なども、重要と思われるものは大切に保存されていたし、もっとさかのぼって、少年時代はドリトル先生シリーズを熱心に読んだのだな、とわかる。ある時期は新潮社の純文学書下ろし特別作品シリーズ(あの、しっかりとした函に入った)を次々に読破したのか、とも。

 持ち主がなにを読み、あるいは集め、手元に残してきたかを本棚が伝えるのは当然だが、さらにおもしろいのは、個々の本がその人にとって、重要なのか、いちおう持っておくのかなど、どういう位置づけになるのかも置き方、並べ方でわかる。大きく影響を与えてくれた本はいくつもあるとは思うけれど、なかでもスーザン・ソンタグの『写真論』が書棚の中で置かれた位置だけを見ても、特別な存在なのであろうことが直感でわかった。手に取らせてもらうと、予想通り、しっかり線を引いて読み込んでいた。個人的にはその線の引かれた『写真論』のいわば“ファクシミリ版”(ノートなどをそのまま複写して本にしたもの)が欲しいと思った。スーザン・ソンタグ『写真論(森村泰昌 書き込み版)』である。

 今回、森村さんがアーティスティック・ディレクターをつとめたヨコハマトリエンナーレ2014を見ていて、僕は彼の本棚を見せてもらったときの「わくわく」とか、「わかるわかる」が蘇ってきて楽しかった。なるほど、こういうのを集めるね、こういうのが大事だよね、こういうのが欲しいね、という気持ち。

 取材時、森村さんの本棚にあったであろうレイ・ブラッドベリ『華氏451度』は見過ごしてしまったのだが(『たんぽぽのお酒』はあった気がする)、今回のトリエンナーレを組み立てるにあたって、こう来ましたか、「やってますね」、「そうかそうか」を端的に示してくれて、しかも結果としてはトリエンナーレという大がかりな仕掛けでもって、目の前に表してくれた。

 本を読むことは旅をすること、または旅の一部を成すもの。森村さんがトリエンナーレを旅に、旅の途中の景色にたとえたのは、これまで様々な本に出会い、読書を重ねてきた彼らしい仕事である。旅は人生の「小型模型」かもしれないし、ヨコハマトリエンナーレ2014は森村宇宙の「小型模型」かもしれない。

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アーティスティック・ディレクター 森村泰昌よりお返事

鈴木芳雄 様

私の本棚、大きくはないのでお恥ずかしいかぎりなんですが、なんとなく並びは考えているんですね。どこの何段目にこの本はいいのか、なんてね。一冊一冊の本自体でなく、どんな本がどの本の隣に似合うか、そんなことを考えるのが好きかもしれません。鈴木さんに言うのもテレますが、こういう本の並びが気になるひとって、きっと編集者気質のひとなんですよね。私はもしかしたら、編集者気質を持った芸術家なのかもしれません。

服とかもね、コーディネートが好きなんです。どんなシャツとか、どんなパンツとかじゃなく、ここにあるものを使って意外なコーディネートを考えてくださいなんていう仕事、好きです。基本、私はコラージュのひとだとも言えるかも。

ですから、展覧会作りには、ある意味向いているのかもしれません。展覧会って、まさに編集作業。同じ素材でも、どんなふうに並べて行くかで、全然ちがってみえる。その並べ方を工夫するのが、好きだし得意芸なんですね。「一冊の本を読み進めて行くように、展示してみました」と記者会見などで説明していたのも、あながち比喩ではなく、展覧会とは本であり編集であると、きっと本気で、そうとらえている証拠です。

鈴木さんの感想を読みながら、自分の特質を改めて発見した次第。ヨコハマトリエンナーレ2014は、ズバリ、私の好きな本棚作り。うーん、だんだんそう思えてきました。

忘却の海からの5つの質問
あなたの世界の中心には、何がありますか?
スマホやコンピュータなどネットワーキングデバイス
ここに大きなゴミ箱があります。形のあるものも、形のないものも、何でも投げ込むことができます。
あなたには投げ込みたいものがありますか?ある場合、それは何ですか?
ない。
あなたの日常生活にアートはあった方がいいですか?それは、なぜですか?
あった方がいい。
個→多への発信装置としても優れているから
今、あなたが一番大切にしている本が燃やされようとしています。
あなたはどんな声または言葉を発しますか?
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「横浜」のイメージを色に例えると、何色ですか?
青と藍の中間くらいの色